●1992.03.10 やまね工房通信 No.41
 2月27日、全国に先駆けて石川県金沢市で「春一番」が吹き荒れたとの報道を耳にしました。どこからか、ふと沈丁花の花の香り。日が沈むのも月いちにちと遅くなって、春はもうすぐそこまで来ています。そういえば、「重いコート脱いで出かけませんか〜」なんていう唄も、ありましたよね。
 さて、ちょっと遅くなりましたが、今年はじめての通信をお送りします。少し装いも新たになりました。今年も、どうぞよろしくお願いいたします。

●工房ニュース

☆熱海発

 渡り鳥の冬越しには雑然とした我が家の庭はぴったりのようです。鳥たちがよく止まる木の下には「落としもの」からいろんなものが芽を出します。
 気の早いシジュウカラのカップルは、もう巣づくりの準備にはいっています。
                 
☆網走発

 2月の網走は、本来ならば身を切るほどの寒さ。流氷がやってきて海が真っ白になるはずなんですが、ここ数年、流氷は沖を行ったり来たりで、なかなか接岸しません。
 そんななかで、いつもは氷の上に2月ころやってくるアザラシは、このところ姿を見せません。聞けば、のんびり昼寝をしていた一頭が、オジロワシに襲われて命を落としたとか。それを別の1頭が見ていたのだそうです。それからバッタリ来なくなったとか。
「どうやって、みんなに知らせたのかな?」と思いつつ、野生の厳しさをかいまみた思い
でした。

日本の野生シリーズ あまみのくろうさぎ

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新れんさい

●ある春の日に 絵と文・落合けいこ
 ふぶきの日があった。

 その年、流氷はなかなか去らず、春は、北国を忘れてしまったかのように見えた。けれど、残り雪のくぼみを注意深く探すと、そこには小さなふくじゆそうのつぼみが、枯葉を持ちあげているのだった。

 やがて、黒々とした土の割れ目から、ある日ぽっかり、ふきのとうも顔を出した。

・・・・つづく
 もう10年以上も前のことです。
 オホーツク海に面した小さな湖のほとりで、春をむかえようとする季節を過ごすチャンスに恵まれました。
 その体験は、わたしに、それまで感じていたものと全く違った「なま」の自然観を与えてくれました。そして、そのときのイメージは、わたしのきもちのなかに、どっしりと根をはって、そこからやまね工房のなかまたちが生まれてきたような気がします。
 そのときのきもちを忘れないためにも、この「小さな春のものがたり」を、この誌上に登場させたいと思います。ちょっとはずかしいのですが、読んでいただければ幸いです。

※網走で過ごした1979年の春のできごと。これがのちに網走の工房をつくる縁につながる。



 3月2日から京都で、ワシントン条約の第8回締約国会議が開かれます。この通信が出るころには、結果が明らかになっていることと思います。ワシントン条約の正式名称は、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」。日本は1980年にこの条約を批准しましたが、トカゲやウミガメなど10種の生物について留保しています。

 さて、会議で争点のひとつとなるのが、スケェーデンが提案しているクロマグロの規制案。クロマグロは高級寿司ネタなどになる上質のトロがとれ、高値で取引されています。世界でとれるクロマグロは年間3万トン。そのうち6割が日本に集まってくるそうです。
 会議を前に、国内では「日本の食文化への侵害だ」との声も聞かれます。「ヒステリックな環境保護論には、うんざり」との論調もあるようです。しかし「日本文化特殊論」を押し出すのも、負けないくらいヒステリックに感じるのですが、いかがでしょう?

 江戸時代は、マグロといえば赤身の部分が重宝され、トロは食べずに捨てられていたそうです。本当に日本「固有」の文化なのか、日本人のどれだけの人がその「文化」を支持しているのか・・・・。このクロマグロの問題に限らず、当事者のわたしたちのなかで、そんな冷静な議論を行なうことが、いちばん必要なのではないかと思います。 

(追記)このときは狂牛病やトリインフルエンザについては考えも及ばなかったけれど。食の環境はこの十年で大きく変わった。


絵・文 下郷さとみ・落合けいこ
編集 下郷さとみ